2013年12月2日月曜日

シーンを切り取って商機を見出す その2 ~高齢者専門の引越し業者~

「人生に何度かしかないシーンを切り取ると、そこに商機が生まれる」という事例のその2である。
今回は「引っ越し」だ。

大阪にあるセイコー運輸という会社が手掛けている、
「シルバー住むーぶ」という、高齢者に特化した引っ越しサービスがある。
http://silver.sumove.com/

「高齢者の引っ越し」と一口に言っても色々あって、
それまで一戸建てに住んでいた70代が夫婦が、「ちょっと便利な駅前のマンションに引っ越すか」
みたいな引っ越しもあれば、
「都会暮らしも飽きてきたから、これからは田舎暮らしだ!」なんて引っ越しもあるかもしれない。
セイコー運輸が行う引っ越しは、そういうところではなく、
介護度が高くなって施設に入らないといけない、とか、逆に事情があって、施設から
自宅に戻るとか「介護前後」の引越しである

実はサービス内容として、特別なメニューがあるわけではない。
(のちに、遺影撮影サービスなどを始めているが、これはあくまでオマケである)
やっていることはいたってシンプルに、家財の片付けや、引っ越しそのものである。
経営者を含めてホームヘルパーの資格保有者がいるということと、
もう一つは、ケアマネジャーや、介護施設に対して、販促・営業活動を行っている、という点に
特徴がある。

元々は地域の運送会社がはじめた新規事業なのだが、
「自宅から介護施設間の引越し」というマーケット設定がミソである。

第一に近距離にほぼ限られること。若年層やそれ以外の転勤族の引っ越しとなると
関西から関東へ、といった広域の引っ越しもあり得る。こうなると、全国展開の大手引越し
チェーンが圧倒的に有利だ。しかし、介護が必要な方の場合、自宅と入居する施設は
近いことがほとんどである。これは地場で展開する中小事業者にとってメリットだ。

第二にケアマネジャーや施設に営業をかけることで、広告費もかける必要なく、
「リピート」がもらえる。
一般の個人の引越しの多くは、ほとんど個人が頼むものであり、よほどの転勤族でない限り
「リピート」の機会は少ない。しかし、介護施設への引越しの場合、そこにケアマネジャーや施設
の影響力が大きくなる。
「こんな業者がありますけど、どうされますか」という推奨をしてくれるのである。
介護業界の人や、介護経験のある人はわかると思うが、
「自宅から施設に入る際の引っ越し」というのは、「切羽詰まった」特殊な状況だ。
「認知症がひどくなって自宅で暮らせなくなる」とか「自宅で介護をしていたけど、転倒を
してしまって、自宅で暮らせなくなる」といったケースが多いのである。
こういうシチュエーションにおいて、
目に見える特別なメニューがなくても、「勝手を知っている」ことだけで、十分価値がある。
お金を払う高齢者のご家族にとっても安心感があるし、
できるだけ、トラブルなく、無事に引っ越しを済ませたいと思っている、
ケアマネや高齢者施設にとって、「同じ言語・肌感覚で話ができる」というのは大きい。

結果として、チラシやWEBといった「一般マス向け」のプロモーションに資源を割くことなく、
地域のケアマネや施設に営業に行くだけ、という固定費のみ世界で仕事が入る。
しかも、一度頼んでうまく引越しを済ませれば、ケアマネジャーや施設は次からも
推奨してくれるだろう。一般の消費者向けの引越しでありながら、実はB2Bのような安定した
ビジネスの仕方ができるのだ。

第三に「相見積もりなく」引っ越しの注文がとれる。
上記のような状況なので、家族にとっても、いろんな業者を比較検討している暇や余裕などなく、
「相見積もり」をとって、というケースはかなり少ないと想定される。
推奨するケアマネや施設側も、何度か頼んで、「勝手を知ってくれてる」関係ができあがると、
よほど問題を起こさない限り、あえて「他のもっといい業者を探そう」という動機は
働かないだろう。
「引っ越し」で検索をたたけば、価格比較サイトで数社の見積もりがあっという間に取れる
現在、「比較や相見積もりなし」の利点は大きい。

セイコー運輸はこの「ノウハウ」を全国の地域運送会社・引越し会社に提供し始めており、
このモデルが全国で通用することが立証されている。

面白いのは、同社が「市場を絞って、それを市場に表明した」だけで、
特別なメニューを開発したり、投資を行ったわけでもない、ということだ。
ヘルパー2級という資格も、経営者が元々祖母の介護のときに取得したものだというから、
実質、初期投資ゼロである。
競争が激しくなったり、事業が行き詰ったとき、「絞る」ことで活路が見いだせることが
あるかもしれない。

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