2013年11月30日土曜日

シーンを切り取って商機を見出す ~陣痛タクシーの例~

ターゲティングする際に、年齢や性別、年収、職業といった「人」でセグメントすることに加えて、
「シーン」でのセグメンテーションが有効な場合がある。
特に、人生に一度、もしくは何度かしかない」というシーンは、
ユニークなサービスを生み出す可能性を秘めている。

タクシー会社の日本交通が提供する「陣痛タクシー」もそうしたサービスの一つだ。
事前にお迎え先、病院、出産予定日などを登録しておくと、
もし陣痛になっても、電話一本でタクシーが駆けつけてくれ、行き先を道案内する必要もなく、
病院に連れて行ってくれる、というものだ。
通常のタクシー配車のコールセンターとは別途、専用のコールセンターを用意しており、
24時間365日対応で、「電話をかけたけど、つながらない」ということもない、という。
登録は無料、お迎え料金400円がかかるだけで、料金は通常のタクシーと同じだ。

「急な陣痛がきて、とりあえず、病院に電話したら、すぐ来てくださいって
いわれたから、タクシー会社に電話したけど、全然つながらないし、やっとつながって
来たと思って、すんごい痛い思いの中、必死の思いで、行き先の病院伝えたのに、
運転手が道わからなくって、ひぃひぃいいながら、道を伝えてるのに、
運転手の態度も悪くって、『大丈夫ですか』の一言もいわないし・・・」とか。
実際、ありそうなシーンだ。

男なので陣痛のつらさは想像でしかないが、本当に大変なんだと思う。

逆にこんなシーンで、電話がすぐつながって、
「〇〇様ですか、陣痛ですか?大丈夫ですよ、すぐにタクシー向かいますからね」
とコールセンターの対応もあたたく、
運転手も
「〇〇病院ですよね、10分で着きますから、もうちょっと頑張ってくださいね、つらかったら
横になっておいてください」
みたいな声をかけて、要領よく、病院まで連れ行ってくれたら、どんなにうれしいことか。
出産の、しかも陣痛がきて、まさにこれから、という人生の一大イベントをともにした、
そのタクシー会社=日本交通の名前は、そのお客様の心に刻まれることだろう。
なんだったら、運転手の名前まで覚えてしまうかもしれない。
(陣痛だとそれどころじゃないか)

こうしたサービスが不安を抱える妊婦さんたちの心をとらえ、
平成24年5月からスタートして1年で登録2万件、利用数7,700件の利用があったという。
なんと都内の妊婦の20%が登録してるのだそうだ。

日本交通がえらいのは、ドライバー7,000名に対して、研修・教育を実施しており、
全ドライバーが陣痛タクシーに対応できる、という点だ。
おそらく、これが「一部のドライバーは」とかに限定してしまうと、都内の幅広いエリアに対して、
スムーズな配車を実現できないのだろう。
それにしても、7,000名全員というところに、会社としての本気度を感じる。

この陣痛タクシーは通常のタクシーと同じ料金であり、これ自身で儲けようというのではない。
が、陣痛タクシーをきっかけに日本交通を「指名」する顧客は間違いなく増えるだろう。
出産後も小さい子供を持つ母親は、検診など、何かと病院への行き帰りタクシーが
必要となる機会は多い。

これは推測だが、そうした「陣痛後の顧客の獲得」ということ以上に、
ドライバーのモチベーションとかやりがいといったものに、このサービスは
つながっている気がする。
出産という人生の一大イベントの一部をお客様とともにし、そこで感謝されるという幸せ。
それは自分の仕事に対する誇りや意義を見つめなおす機会を与えてくれるのではないか。

陣痛タクシーの真の効果は、「指名買い顧客の獲得」といったこと以上に、
そんなところにあるのかもしれない。

2013年11月29日金曜日

提案営業に必要なスキル ~セレクト力とアジャスト力~

営業はクリエイティブな仕事だ。

「自分がいなかったら、存在しなかったであろう成果を顧客と自社にもたらす・作り出す」
のが営業の役割だからである。

「クリエイティブ」だといっても、「クリエイター」に求められる素養がいるとか、
POPのコピーのセンスが必要だとか(それはそれであるに越したことはないが)、
アイデアマンじゃないといけないとか、そういうことを言っているのではない。
(「クリエイター」と称したり、広告を作る人の中で、本当の意味で「クリエイティブ」な人は
 一握りな気がするが・・・)

いわゆる「提案営業」の仕事は「0から1の事例づくり」よりも、
「成功事例の横展開」の方が圧倒的に多いからだ。

例えば食品メーカーの営業がレストランに新しいメニューを提案するとしよう。
全く新しいメニューであれ、日本で知られていないどこかの国の料理であれ、
それを採用しているレストランがない限り、そのメニューが売れるか、売れないかは
誰にもわからない。
最近、回転ずしのくら寿司では、コンビニのような挽き立て珈琲を提供し始めたが、
これも回転ずしチェーンでは初めての試みだ。実際にどのくらいの成果が出るかは
いくら入念にリサーチをしたとしても、「やってみないとわからない」世界である。

営業活動で得意先に提案するとき、その提案が得意先にとって斬新であればあるほど、
それは少なからず、「実験」という色彩が強くなる。
得意先に対しても、「成果が出るかどうかは、やってみないとわからない部分はありますが、
他社に先駆けてやってみませんか」と了承を得なければすすめられない。
(やってこともないのに、「確実に成果が出ます」というのは嘘をいうようなもの)
その分、条件面で優遇したり、まずは「1店から実験」みたいなことで進めるわけだ。

新しい市場を作ったり、新しい用途を広げていくには、こうした「実験」が欠かせない。
しかし、「実験だけ」では、手間と苦労がかかるわりに「目先の数字」には結び付きにくい。
「実験」はある種の「弾込め」である。提案できる武器を作り、それをもとに「横展開」「水平展開」
して数字に結びついていく。

提案のベースとなる武器=事例は何も自分の営業活動だけから作り出す必要はない。
周りの同僚や、上司や、ほかの営業所の営業パーソンの事例など、社内中から
引っ張ってくるべきだ。

問題は、数ある事例の中から、自分の担当する特定の得意先に、「いま」、「最適な」
事例をチョイスできるかである。事例の「セレクト力」だ。
「最適な」というのは、得意先の方針にゃ戦略、課題と合致し、その提案が成果に結びつくか
どうか、ということだ。
ある得意先では成果が出た提案でも、ほかの得意先にはマッチしない、あるいは
やっても今一つ成果が出ない、ということは十分ありえる。
例えば、全国的に高齢の単身者や夫婦二人暮らしが増えているということで、一人や2人に
あった食べきりサイズの惣菜を都市部の食品スーパーに提案し、採用され、実績が出た事例が
あったとする。同じ提案を郊外ロードサイドのスーパーに持って行ったらどうだろう。
「それって、うち向きじゃないよね」と提案自体をはねられるかもしれないし、
単品で「少人数向け」を訴求したところでインパクトは弱く、売り上げ増にはつながらないかも
しれない。
「この事例なら、この得意先A社でも成果につながるだろう」という目利き力が要るのだ。

もう一つ留意しないといけないのは、「横展開」「水平展開」というのは、
「他社で成功した事例を、そっくりそのまま、その得意先に紹介すること」ではない、ということだ。
きっちり成果を出すには、その得意先に適切な事例をセレクトしたうえで、
さらに得意先にあわせて、最適な形にアレンジする能力が問われる。
例えば、「イタリアンフェア」のようなエンド陳列を食品スーパーに提案するとしても、
そのお店の客層やほかの品ぞろえに合わせて、少し高めのオリーブオイルも入れるとか、
アンチョビのような周辺商材を充実化させるといった、細かな「調整」が必要になる。
すなわち、「アジャスト力」である

では、セレクト力とアジャスト力を磨くにはどうすればよいか。
得意先にとって最適な事例を、最適な形にアジャストして提案する。
そこで大事なことは、「何が最適か」は得意先ごとに異なるということだ。
個々の得意先にとっての最適を考えるには、「得意先のことをどれだけ深く知ることができるか」
ということにかかっている。

2013年11月24日日曜日

“俺の”の戦略ストーリー

遅ればせながら、楠木健さんの「ストーリーとしての競争戦略」を読んだ。
「経営センスの論理」から先に入って、この人、すごいなーと思っていたが、
「ストーリーとして競争戦略」を改めて読むと、本当に秀逸である。

戦略論という意味では、一つの到達点だろう。
「なぜ、あの会社儲け続けているのか」を説明するフレームや考え方として
今の時点でこれ以上のものはないかもしれない。

ただ、全部を読み終えて、「アスクル、ガリバー、マブチモーターなど、これで説明できるのって
ごく一部の企業じゃないの?」とは思ってしまった。
考えてみれば当然で、持続的に利益を出し続けている会社が、実は稀だからだ。
が、その後また色々考えてみると、楠木式で説明するとわかりやすい事例が
結構あることに気付く。

最初に思い当たったのは「俺のフレンチ」「俺のイタリアン」「俺の割烹」などで有名な「俺の」だ。
同書にも秀逸な戦略ストーリーとして説明されているブックオフ創業者の坂本さんが
経営するだけに、「俺の」の戦略ストーリーもよくできている。

坂本さんの著書にもあるように、「高級食材をじゃぶじゃぶ=高原価率」を使って、
「一流の料理人が作る」、「立ち飲み店」というのが、同社のビジネスの骨格だ。
この3つの「合わせ技」というか「掛け合わせ」が「キラーパス」なのだと思う。
普通に考えれば、この掛け合わせは「一見、非合理」だからだ。

「俺の」の「シュート」は、コスト優位である。
「原価率が高いのに、コスト優位」という一見矛盾するものを両立させているのが
「高い回転率」(図の黄色)だ。
俺のを成り立たせている要因は、この「高い回転率」にある。


飲食店のコスト構造はいたってシンプルで、
主なものは「食材原価」「人件費」「家賃」「設備の償却」である。
普通の飲食でいえば食材原価は3~4割が妥当とされる。
「妥当」って誰が決めたかって、人件費も家賃もかかるし、まあそんくらいだよね、
というだけの話だが、「だいたい、どこも回転率は同じようなものだから」という前提での話だというのがミソだ。
上記の原価のうち、人件費、家賃、償却は売り上げに関係なく、ほぼ固定。
だから、回転率すなわち売上さえ伸ばせば、これらの「比率」は下げることができる。
そこで出る儲けは原価を上げることに使っても、全然儲かる、というのが、「俺の」のモデルだ。

従って、回転率を上げることに全ての活動がフォーカスされている。
まず、立ち飲み。行列1時間の後はせいぜい1時間半、ながくて2時間だ。
デザートはあっても珈琲は出さない。それで500円客単価を上げるより、次のお客様を
入れることを優先している。
ランチをしない、というのも一つだ。客数確保と売上のために利幅は薄くともランチをやる、という飲食は少なくない。が、俺のはランチはせず、その時間で仕込みに集中している。
行ってみるとわかるが、オーダーしてから料理が運ばれてくるスピードが異様に早いのは、
仕込みに時間をかけているからだと思う。同時に、ランチをしない、というのは「一流の料理人」
という打ち手にもつながっている。これでランチまでやっていたら、労働時間が長くなりすぎて、
料理人の確保が難しくなるからだ。

そして、「高い回転」は、行列ができるほどの集客があってこそ成り立つ。だから、
ときには「原価率100%超え」のような「思わず人に言いたくなるメニュー」を作り、話題にさせる。
銀座という狭い商圏に集中出店し、広告・販促費をかけずに周知させる。
「ミシュラン星付き料理人」というのも話題の一つ。
イタリアン、フレンチから始まって、割烹、焼き鳥と短期間で多業態展開してるのも、
お客を飽きさせず、集客し続けるための施策。同時にこれは、「一流料理人」というパスとも
つながっている。「イタリアンだけ」といったように一つの料理ジャンルに限ってしまうと、
優秀な人材を大量に雇うのが難しくなるからだ。
さらに、スピーディな出店を可能にしているのは、立ち飲みで相対的にスペースが狭く、
店舗の初期投資が小さいからでもある。これはストレートにコスト優位にもつながっている。

このように、「食材原価は高くても、高回転で、コスト優位」という骨太ロジックを核に、
あらゆる打ち手がつながっている、よくできたストーリーなのである。

他の飲食を考えると、大規模チェーンは、ファミレス、ファストフード、牛丼、回転ずし、
居酒屋、どれも基本的に大量出店による規模のメリットによるコスト優位の論理で動いている。
各社が競うのは、個々の打ち手の洗練度合である。
一方、単純に「いい腕でうまいものを、いいサービスと、ゆったりとした場所」で提供すると自然に高くなる、というのが高級レストランだ。

比べてみると、「俺の」はこれらとは全く違う論理、ストーリーで動いていることがよくわかる。

ただ、話題になれば「真似される」のが飲食業の常である。
しかし、「俺の」は、そのストーリーの「長さ」もよくできており、簡単にまねできるかは疑問だ。
◇話題性→収益→料理人への処遇アップ→ますます優秀な人材が集まる・・・
◇集客→出す料理数の多さ→オペレーションの洗練と、料理人の技能向上→さらに回転アップ・・・
といった好循環サイクルが埋め込まれているからである。
そもそも、他社でやろうと思っても、料理人を集めるのに苦労するし、
「広い厨房で、一日一回転」になれている料理人は、すぐには「俺の」並みのスピードで料理を
出すことは難しいだろう。組織の能力(OC)での差別化も磨かれていっているのだ。

同じような業態でのライバル・競争という意味では、「俺の」は当面、おそらく勝ち続けることが
できる気がする。むしろ、一番怖いのは、移ろいやすい消費者の「飽き」ではないか。
本を売ることに、「飽き」はないし、選択肢は他にあまりないが、無限に選択肢のある食の世界で
「高回転」を維持し続けられるか。
お客様の飽きとの戦いこそが最も厳しい戦いなのかもしれない。

2013年11月21日木曜日

提案書はタイトルが7割

営業活動の中で、「提案書」を作って得意先にプレゼンテーションをしたり、
飛び込みの際に資料としておくる機会は多い。

実は、提案の成否の半分以上は、「表紙」で決まるのではないか、と思う。
何故なら、提案の「ストーリー」がタイトルを含めた表紙に現れるからだ。

商談が成功する提案書のタイトルには「型」がある。
それは、
「〇〇による◇◇のご提案」だ。

〇〇は主に提案しようという自社の商品・サービス、あるいはそれを使った施策
◇◇は、提案する対象の得意先のメリット、言い換えると、この提案によって
得意先が得られるであろう成果である。

例えば、Webサイトの広告を提案する場合なら、
「読者参加型の記事広告による、ママ層ターゲット獲得のご提案」
食材などをスーパーに提案する場合なら、
「メニュー提案型クロスマーチャンダイジングによる、買い上げ点数アップのご提案」
ITシステムによる間接部門のコスト削減なら、
「〇〇システムの導入による、給与計算関連事務コスト削減のご提案」
といったイメージである。

逆に、表紙を受け取った瞬間に、提案を受ける読み手として、がっかりする、
もしくは興味をそそられないのは
「弊社 新商品〇〇のご提案」
といった類のタイトルである。提案先のニーズに関係なく、
「うちが新商品を発売するから、聞いてください」というスタンスがタイトルに
現れてしまっている。これだったら、カタログやパンフレットと一緒である。
「新商品発売か何か知らないけど、そりゃ、御社の都合でしょ」
と中身を開いてもらえないかもしれない。

「期間限定 〇〇キャンペーンのご提案」
などは、「興味はそそられる」かもしれないが、これは要するに
「いくら安くなるの?」という点においてのみ、興味がそそられるのであって、
インパクトのある値引きがない限り、成り立たないタイトルだ。

大事なのは◇◇、つまり、得意先のメリット・成果である。
〇〇の自社の商品・サービスはそれを実現するための手段に過ぎない。
「〇〇による、◇◇のご提案」というタイトルは、
「こちら都合での売込みではなく、ご一緒に御社のビジネスを盛り立てたいと思ってるんです」
というスタンスを表現したものだ。

ポイントは◇◇の中身である。普段からの営業活動や、事前のリサーチを通じて、ここに
「そうそう、うちは今、それが課題なんだよねー」
「そう、この前話をしたことって、まさにそれ、それをやりたいんだよね」
という「刺さる」内容が持ってこれるかどうかが商談の成否を分ける。

だから、◇◇は、なるべく具体的な方がよい。
新しい顧客が増やしたいのなら、具体的に得意先が狙いたいと思っているターゲット像を書く。
コスト削減や業務効率化なら、具体的にどのようなプロセスに効果があるかを書く。

例えば、形式としては「〇〇による◇◇のご提案」という形をとっていても、
「弊社新商品Xによる御社売上アップのご提案」では、
「弊社新商品Xのご紹介」と何ら変わらないのである。
同じ新商品を小売り店に提案するのでも、例えば、自社の新商品が少し高めなら、
「高価格帯商品ラインナップの拡充による、〇〇カテゴリーの利益率アップのご提案」
とすれば、グッとしまる。
ここではあえて、自社の新商品Xの名は出していない。出すとしたら、「サブタイトル」でよい。
ポイントは、「高価格帯商品ラインナップ拡充」という、得意先の「品揃え」において
自社の新商品Xを加える意味を説明していることである。

こういうタイトルをつけると、自然と、提案書の中身・ストーリーも骨格が決まる。
なぜ、得意先にとって高価格帯のラインナップ拡充が必要なのか、という理由を述べ、
実際に導入された場合の、カテゴリーの単価や利益率がどう変化するかの
シミュレーションを示すことになるだろう。
逆に言えば、提案のストーリーが決まってから、それを端的に表すタイトルをつけるのが
正しい順番といえる。

よい提案書はタイトルを見ただけで、中身がわかるものである。
中身がよく考えられていれば、それがタイトルに現れるからだ。
「伝え方が9割」式でいえば、「提案書はタイトルが7割」くらいか。
(完全に雰囲気)

あと、細かいことだが、宛名にも気を付けたい。
「~御中」という得意先の名前は正式名称で。「㈱」や略称は使わない。
名前を間違えるのは言語道断である。
そんなところにも、営業担当者の「姿勢」は現れるし、
得意先も絶対に見過ごさないことを心に刻んでおこう。

2013年11月15日金曜日

これからの営業は「売り込み」ではなく、「お役立ち」

「営業」というと、モノ・サービスを売る仕事である。

営業担当者自身でも「今月も『売り込んで』、ノルマあげなけきゃ」と日々、走り回っている
人は多いと思う。

しかし、これからの営業担当者のマインド・心の持ちようとして、「売り込み」という
発想は捨てたほうがいいのではないかと思う。
「売り込み」というと、自社の売上や利益をあげるために、
「余分なものを買わせる」「ちょっとでも多く買ってもらう」といった、どちらかというと
顧客・取引先の「不利益」につながるネガティブなイメージがある。

実際、「売り込もう」と思って営業活動をしている人は結果として、売上や利益を
あげられないことが多い。
一つには、顧客・取引先から「売込み光線」を見透かされるからだ。
売込み姿勢が目立つと、「こいつ、また、自分のところの都合で商談に来たな」と思われて、
そもそも、きちんとした信頼関係を築くことが難しい。
もう一つは、実際に顧客・取引先がビジネスとしての成果を上げられないからでもある。
消費財メーカーの小売り店への営業を考えるとわかりやすいが、「売り込もう」と思っている
担当者は、商品の導入が決まり、自社の売上が立った時点で、「よし!売込み完了!」と
思っているので、その先にあまり気を配らない。入荷した商品が回転していなかったとしても、
置き場所を変えるなり、POPなどの販促で、なんとか小売店で消費者に手に取ってもらような
施策を考える、ということがおろそかになる。

逆に、営業活動で成果を上げている人は、
「いかに自社の商品・サービスを手段(ツール)として、顧客・取引先のビジネスに役立つか」
という「お役立ち」の発想で仕事をしている。
焦点は、顧客・取引先のビジネス成果である。
これを「本気」で考えられるかどうか、が極めて重要だ。

上記の消費財メーカーの小売店への営業でいえば、自社の商品の売上の限らず、
担当する小売り店の棚(カテゴリー)全体の売上や利益を上げることを「真剣に」考えている。
「ちょっとこの棚の棚割り考えてみてよ」と顧客・得意先に言われたときに、
(こういってもらえるまでが、実際、大変なのだが・・・)
いかにして、その棚の成果を最大にするかを考え、提案する。
自社の都合を考えれば、自社商品で埋め尽くせばいい。
が、よっぽどのメーカーでない限り、自社の「3番手、4番手」の商品よりも、
他社の売れ筋を入れたほうが、棚としての成果は高まる。
こういうときに、ギリギリまで自社の商品も入れつつ、他社の売れ筋も入れた提案ができるか
どうかが、継続的に営業で成果あげられるかどうかの分かれ目だ。

昔ならともかく、今は「成果・結果はシビアに数字で出る」ということを忘れてはならない。
そう、おそらく、POSも普及していないような高度成長期は「売込んで」おいても、モノは売れたし、
その結果をギリギリ問われることもなかったのだろう。
「カテゴリー単位の売上・回転」なんてものは雰囲気でしかわからなかったのだから。
今は、売っているものがなにであれ、「導入後の効果」が厳しく問われるのが当たり前なのである。

顧客・得意先のビジネス成果を一番に考える、といっても、なんでもかんでも
顧客の要求通りにするとか、自社の利益を犠牲にせよ、といっているのではない。
極端な話、値引きして売れば、顧客の利益になる。
しかし、あくまでこれは短期の話だ。「特別条件」みたいな話は一時的には可能でも
長くは続かない。
だいいち、値下げして売上を上げるなんてことは、バカでもできる。
いかに、自社の利益を削らずに、顧客・得意先の成果を最大化できるかに
「知恵」を使う必要があるのだ。

なお、これは姿勢の問題なので、「売り込み」を「提案」という言葉に変えても、
中身が一方的な自社都合でのPRになっていたら同じだ。
「当社の新商品なので、ご提案します」
「ただいま、キャンペーン中なので、ご提案します」
というのは、典型的な「売込み」である。

そうではなく、いかに自社の商品を使って、顧客・得意先のビジネスに「お役立ち」ができるか。
いかにしてお客様のビジネス成果を大きくできるか、その発想が大事だ。
これは顧客・得意先の担当者と目線・ゴールをそろえる、ということでもある。
ゴールが一つになり、ベクトルがそろえば、商談の場でともに戦う「同志」として、
議論できるようになる。
「売込みばっかりで面倒くさいヤツ」と思われるか、
「何かうちにトクになる話を持ってきてくれる、一緒に話ができるパートナー」
と思われるか、それは、姿勢次第なのである。
成果が出れば、得意先に感謝もされる。
目の前の人に喜ばれたり、感謝されれば、仕事は断然、楽しくなるものだ。

2013年11月13日水曜日

コンビニコーヒー戦争 ローソンがセブンイレブンに勝てない本当の理由

コンビニでいれ立てのコーヒーを飲むのが当たり前になって、
最近、そのたびに「うーん」と考えさせられるのがローソンのコーヒーだ。

セブンイレブンで挽き立てが100円となった今、180円(ポンタで割引がついても150円)は
どう考えても割高である。
僕の行く店では、50代と思しきパートのおばちゃんが、どう見ても似合っていない
カフェ風エプロン姿で手渡ししてくれる。
しかし、おばちゃんはレジ係でもあるので、手を消毒し、コーヒーを入れて、ふたを閉める間は
レジで行列をしている人たちは「ちょっとお待ちください」とお預けを食う。さらに困ったことに、
コーヒーの受け取り口は店の出口に近く、一番奥側のレジでコーヒーを注文しようものなら、
その距離約5メートルである。作業と移動の往復にして10秒。
普段はどうということのない10秒だが、オフィス街の昼下がり、13時から再度始業開始ですよ、
というコンビニでは永遠のような10秒間だ。

「セブンイレブンみたいに、セルフにしたらいいのに」
と、僕に限らず、ローソンでコーヒーを買った人の90%が思っているに違いない。
中には、ラッキーにも、コンビニのバイトのお姉さんが超かわいくて、
「あのお姉さんから手渡ししてもらえるのが、一日の最高の癒し」みたいな男子も
10%くらいはいるかもしれないが・・・。

導入当初はスタバのようなコーヒーチェーンを想定して、「手渡し」にしたのだろう。
衛生面の気遣いもあったかもしれない。
また、「レジが行列を作る」みたいな場面の少ない地方のコンビニは手渡しでも
問題ないかもしれない。
が、コンビニでコップに入ったコーヒーを飲むのは都市部で働く人たちで、
それも出勤前と昼休み休憩がピークに決まっている。その時間帯はたいてい、レジは行列だ。

その中で、あの「コーヒー手渡し」は、どう考えても、機会損失のもとだ。
「あ、ローソンはレジこんでるから、他にしよ」となっても、何ら不思議はない。

コーヒーの件に限らず、どうも最近のローソンは、賢い本部スタッフが戦略考えました」色
強い気がしてならない。ナチュラルローソンにしても、「街のヘルスステーション宣言」にしても、だ。
確かに、戦略としては一見正しそうに見える。王者であるセブンイレブンと違う競争ポジションで
戦う、というのは「教科書的な戦略論」でいうと、すごく王道だし、納得感もある。
(「ストーリーとしての競争戦略」で有名な楠木先生風に言うと、SP(ストラテジックポジショニング)  的競争戦略の典型)

が、しかし、なんだか頭でっかちなのである。
その戦略を描いた人たちは、この現場、売り場の、レジ内のドタバタを見たのか?と。
「あー、もう13時には戻らないといけないのにー」と、スイーツ片手にイライラしている
OLさんたちの表情を見たのか、と。

先日、新聞では「コーヒーは粗利率も高いので、加盟店ももっと積極的に売ってほしい」
という新浪CEOの談話が載っていて、
「いやー、売りたくても売れないんじゃないの、オペレーション大変だし」と、思わず
突っ込みを入れたくなった。
少なくともオフィス街平日昼のローソンレジで「ご一緒にコーヒーもいかがですか?」という
余裕なんてどこにもない。
その前に、機械も必要に応じて入れ替えて、セルフ化だろ、と思う。

そんなことを考えていたら、今日の日経MJにセブンイレブンのコーヒーの記事が載っていた。
後発ということもあり、味の素AGFと富士電機の協力を得て、2年の開発期間を経て、
満を持して投入したという。
確かに、目の前でコーヒーをがりがりと挽くシズル感、取り出し口のカバー(衛生、安全、香りが広がる効果)、出来上がった際のピーピー音(サンクスにはこれがない)、出来上がりのスピード、
メンテナンスの早さなど、セブンのものは完成度が高い。
そして100円という価格。
それはもう、圧倒的にセブンに軍配があがる。
ローソンの平均日販60杯に対し、セブンは90杯というのもうなずける。

セブンの攻勢に対して、ローソン他、各社も対抗策を出すという。
ローソンは期間限定で高級希少種を使ったコーヒーを出すとともに、
サービスをより充実させるために、「接客やコーヒーの専門知識を問う社内の資格制度の
資格保有者を現在の4倍に当たる2,000人に増やす」らしい。

ん??ちょっと、それ、努力の方向、間違ってませんかね?!
高級希少種はともかく、
「サービスを充実」って。コンビニのコーヒー手渡しに何の専門知識とサービスが必要だと
いうのか・・・。
コーヒーの専門知識を問うくらいだったら、手渡しできるのは「かわいい子か、イケメンに限る」とかの方が効果高そう・・・。
そして、コンビニにおける最上のサービスとは「混雑しているレジでストレスを感じさせないこと」ではないのか。

同じ今日のMJによると、セブンの鈴木会長は常々、社内に
「他社を見るな、お客の変化だけ見ろ」と言っているという。
おそらく、セブンにとっては「お客の変化」の大事な要素の一つとして、
「現場」「売り場」が入っているに違いない。
会議室で、ライバルをきっちり分析し、きれいなポジショニングマップを書いていそうな
(完全に想像ですけど)、ローソンとは、実に対照的だと思いませんか。

2013年11月11日月曜日

マーケティングインフラとしてのTポイント

Tポイントが購買データの食品や日用品メーカーへの提供を開始する。
多数の加盟店から集めた購買データから、特定の商品の購入者のプロフィールや
他の商品の購入状況、思考などを分析して提供するという。

「ビッグデータでマーケティングがかわる」系の話は大半が幻想だと思うが、
これはやり方次第で、使える「インフラ」になりそうだ。
特に有効なのは、消費者調査に大きな費用をかけられない中堅・中小メーカーだ。

消費財メーカーといっても、アサヒ、キリン、サントリー、キユーピー、カゴメ、日清食品、グリコや、資生堂、花王、ライオンといった1,000億円を超えるような大手メーカーばかりではない。
ギョーザ専業メーカー、豆菓子専門メーカー、傘メーカー、ホームセンターに雑貨や鍋を作っている
会社などなど、地方に行くと、消費財を作って、スーパーやホームセンター、ドラッグ、コンビニなどにおさめている数億から数十億規模の会社がかなりある。

そういう会社に勤めたことがある人ならわかると思うが、実はこういうところでは、
「実際のところ、自社の商品を買っているのはどういう人か」ということが、
びっくりするくらい見えていない。

上にあげた大手企業の中で、「ちゃんとマーケティングをやっている会社」なら、
ネット調査などを使って、おおよその商品ごとの顧客像はつかんでいる。
「ターゲット設定」はマーケティングの根幹であり、実際に想定通りの顧客層に受け入れられたか
どうかを確認しておけば、適切な「次の一手」が打てるからだ。

しかし、中堅・中小企業はそうはいかない。数百万円の調査予算なんてどこにもないし、
そもそも、ネットモニターから「自社の顧客」を探すだけで一苦労である。有名ブランド商品
でなければ相当出現率が低いし、「〇〇のこんにゃく」みたいな一般名称に近い商品だと、
自社商品の顧客を識別することすら難しい。
「知ることが難しい」と、次第に、そのことへの関心も薄れていく。
「最終の顧客」という、メーカーにとって最も重要なものであっても、だ。

かわりに重視されるのが、スーパーのバイヤーなど、流通の声である。
「A社で売れている、あれよりちょっと安いの持ってきて」
「B社と同じ価格で、もうちょっと量が多いやつ」
といった目の前のバイヤーの声に従って、実際の商品開発が進めれているのが、
中堅・中小の消費財製造業の実態だ。
そこに慣れきってしまうと、「消費者のインサイト」なんてことへの関心は遠のき、
目の前のバイヤーの意見の振り回されることになる。そこに主導権の持ちようはない。
商品も、誰向けなのかわからない、「万人受け」で、ありきたりなものになりがちだ。
行き着くところは価格競争だ。

中堅・中小企業と書いたが、大手メーカーの中でも売り上げ規模の小さい商品は
大なり小なり似たような状況だ。
一品番で数億円を超えない規模の商品に、潤沢な調査予算がつくことは、まずない。

Tポイントで、商品の知名度、規模を問わず、購入者のデータが得られるようになることは
この状況に風穴を開けることになるかもしれない。
「〇〇社のギョーザ 20個入り」をどんな人が、いつ、どんな店で購入したかが、
わかるようになるからだ。
「今の顧客がはっきり」というのは、商品開発に指針と確信を与える。
商品開発の方向は、大きく、今の顧客にもっと買ってもらえるものか、
今とれていない顧客にリーチするものか、それさえ決めればいいからである。
かつ、「今の顧客」と「とれていない顧客」がどういう人かがわかっていれば、
かなり商品企画開発の方向性は絞り込まれることになる。
「社内でなんとなく、こんなのが私はほしいと思いました」とか「バイヤーからこういうのを使ってくれと言われました」というより、
「現在の主要顧客の30代男性がさらに満腹感を感じもらえるような商品」とか
「今、取れていない高齢者2人暮らし世代向けの商品」といった方が、
より戦略的な商品開発が可能となるはずだ。

今のところ、Tポイントデータの利用料金は100万円以上とのことだが、
数十万まで下がってくれば、使える企業はかなり増えるだろう。

もう一つ、マーケティングのインフラという意味では、最近リリースされた
マクロミルの「Questant」も注目だ。これはASP式のセルフアンケートサービスで
今のところ10問100サンプルまでなら無料で利用できる。
有料化も予定されているようだが、年間29,800円と個人事業主でも十分使えるレベルだ。
モニター属性に厳密さをもとめず、「ちょっといろんな人の意見を聞きたい」というシーン
で使えそうなツールだと思う。当然、メーカーの商品開発にも使えるだろう。

郵送調査や対面調査しかなかった時代から、ネット調査が普及して、
「消費者を知る」「顧客を知る」ことは、かなり容易になった。
マーケティングのインフラにおける「民主化」だ。
現在、技術の進化でより一層の民主化が起きつつある。

道具はそろいつつある。あとは、いかにこれを「使いこなすか」だ。
それには、顧客のことを知りたい、という企業としての意識・風土が必要である。
目の前のバイヤーが顧客ではない。
自社の商品を購入し、使ってくれるお客様こそが、自社の顧客である。
中堅・中小企業にとっては、まずは、その発想転換が必要かもしれない。