2013年11月30日土曜日

シーンを切り取って商機を見出す ~陣痛タクシーの例~

ターゲティングする際に、年齢や性別、年収、職業といった「人」でセグメントすることに加えて、
「シーン」でのセグメンテーションが有効な場合がある。
特に、人生に一度、もしくは何度かしかない」というシーンは、
ユニークなサービスを生み出す可能性を秘めている。

タクシー会社の日本交通が提供する「陣痛タクシー」もそうしたサービスの一つだ。
事前にお迎え先、病院、出産予定日などを登録しておくと、
もし陣痛になっても、電話一本でタクシーが駆けつけてくれ、行き先を道案内する必要もなく、
病院に連れて行ってくれる、というものだ。
通常のタクシー配車のコールセンターとは別途、専用のコールセンターを用意しており、
24時間365日対応で、「電話をかけたけど、つながらない」ということもない、という。
登録は無料、お迎え料金400円がかかるだけで、料金は通常のタクシーと同じだ。

「急な陣痛がきて、とりあえず、病院に電話したら、すぐ来てくださいって
いわれたから、タクシー会社に電話したけど、全然つながらないし、やっとつながって
来たと思って、すんごい痛い思いの中、必死の思いで、行き先の病院伝えたのに、
運転手が道わからなくって、ひぃひぃいいながら、道を伝えてるのに、
運転手の態度も悪くって、『大丈夫ですか』の一言もいわないし・・・」とか。
実際、ありそうなシーンだ。

男なので陣痛のつらさは想像でしかないが、本当に大変なんだと思う。

逆にこんなシーンで、電話がすぐつながって、
「〇〇様ですか、陣痛ですか?大丈夫ですよ、すぐにタクシー向かいますからね」
とコールセンターの対応もあたたく、
運転手も
「〇〇病院ですよね、10分で着きますから、もうちょっと頑張ってくださいね、つらかったら
横になっておいてください」
みたいな声をかけて、要領よく、病院まで連れ行ってくれたら、どんなにうれしいことか。
出産の、しかも陣痛がきて、まさにこれから、という人生の一大イベントをともにした、
そのタクシー会社=日本交通の名前は、そのお客様の心に刻まれることだろう。
なんだったら、運転手の名前まで覚えてしまうかもしれない。
(陣痛だとそれどころじゃないか)

こうしたサービスが不安を抱える妊婦さんたちの心をとらえ、
平成24年5月からスタートして1年で登録2万件、利用数7,700件の利用があったという。
なんと都内の妊婦の20%が登録してるのだそうだ。

日本交通がえらいのは、ドライバー7,000名に対して、研修・教育を実施しており、
全ドライバーが陣痛タクシーに対応できる、という点だ。
おそらく、これが「一部のドライバーは」とかに限定してしまうと、都内の幅広いエリアに対して、
スムーズな配車を実現できないのだろう。
それにしても、7,000名全員というところに、会社としての本気度を感じる。

この陣痛タクシーは通常のタクシーと同じ料金であり、これ自身で儲けようというのではない。
が、陣痛タクシーをきっかけに日本交通を「指名」する顧客は間違いなく増えるだろう。
出産後も小さい子供を持つ母親は、検診など、何かと病院への行き帰りタクシーが
必要となる機会は多い。

これは推測だが、そうした「陣痛後の顧客の獲得」ということ以上に、
ドライバーのモチベーションとかやりがいといったものに、このサービスは
つながっている気がする。
出産という人生の一大イベントの一部をお客様とともにし、そこで感謝されるという幸せ。
それは自分の仕事に対する誇りや意義を見つめなおす機会を与えてくれるのではないか。

陣痛タクシーの真の効果は、「指名買い顧客の獲得」といったこと以上に、
そんなところにあるのかもしれない。

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