2013年11月11日月曜日

マーケティングインフラとしてのTポイント

Tポイントが購買データの食品や日用品メーカーへの提供を開始する。
多数の加盟店から集めた購買データから、特定の商品の購入者のプロフィールや
他の商品の購入状況、思考などを分析して提供するという。

「ビッグデータでマーケティングがかわる」系の話は大半が幻想だと思うが、
これはやり方次第で、使える「インフラ」になりそうだ。
特に有効なのは、消費者調査に大きな費用をかけられない中堅・中小メーカーだ。

消費財メーカーといっても、アサヒ、キリン、サントリー、キユーピー、カゴメ、日清食品、グリコや、資生堂、花王、ライオンといった1,000億円を超えるような大手メーカーばかりではない。
ギョーザ専業メーカー、豆菓子専門メーカー、傘メーカー、ホームセンターに雑貨や鍋を作っている
会社などなど、地方に行くと、消費財を作って、スーパーやホームセンター、ドラッグ、コンビニなどにおさめている数億から数十億規模の会社がかなりある。

そういう会社に勤めたことがある人ならわかると思うが、実はこういうところでは、
「実際のところ、自社の商品を買っているのはどういう人か」ということが、
びっくりするくらい見えていない。

上にあげた大手企業の中で、「ちゃんとマーケティングをやっている会社」なら、
ネット調査などを使って、おおよその商品ごとの顧客像はつかんでいる。
「ターゲット設定」はマーケティングの根幹であり、実際に想定通りの顧客層に受け入れられたか
どうかを確認しておけば、適切な「次の一手」が打てるからだ。

しかし、中堅・中小企業はそうはいかない。数百万円の調査予算なんてどこにもないし、
そもそも、ネットモニターから「自社の顧客」を探すだけで一苦労である。有名ブランド商品
でなければ相当出現率が低いし、「〇〇のこんにゃく」みたいな一般名称に近い商品だと、
自社商品の顧客を識別することすら難しい。
「知ることが難しい」と、次第に、そのことへの関心も薄れていく。
「最終の顧客」という、メーカーにとって最も重要なものであっても、だ。

かわりに重視されるのが、スーパーのバイヤーなど、流通の声である。
「A社で売れている、あれよりちょっと安いの持ってきて」
「B社と同じ価格で、もうちょっと量が多いやつ」
といった目の前のバイヤーの声に従って、実際の商品開発が進めれているのが、
中堅・中小の消費財製造業の実態だ。
そこに慣れきってしまうと、「消費者のインサイト」なんてことへの関心は遠のき、
目の前のバイヤーの意見の振り回されることになる。そこに主導権の持ちようはない。
商品も、誰向けなのかわからない、「万人受け」で、ありきたりなものになりがちだ。
行き着くところは価格競争だ。

中堅・中小企業と書いたが、大手メーカーの中でも売り上げ規模の小さい商品は
大なり小なり似たような状況だ。
一品番で数億円を超えない規模の商品に、潤沢な調査予算がつくことは、まずない。

Tポイントで、商品の知名度、規模を問わず、購入者のデータが得られるようになることは
この状況に風穴を開けることになるかもしれない。
「〇〇社のギョーザ 20個入り」をどんな人が、いつ、どんな店で購入したかが、
わかるようになるからだ。
「今の顧客がはっきり」というのは、商品開発に指針と確信を与える。
商品開発の方向は、大きく、今の顧客にもっと買ってもらえるものか、
今とれていない顧客にリーチするものか、それさえ決めればいいからである。
かつ、「今の顧客」と「とれていない顧客」がどういう人かがわかっていれば、
かなり商品企画開発の方向性は絞り込まれることになる。
「社内でなんとなく、こんなのが私はほしいと思いました」とか「バイヤーからこういうのを使ってくれと言われました」というより、
「現在の主要顧客の30代男性がさらに満腹感を感じもらえるような商品」とか
「今、取れていない高齢者2人暮らし世代向けの商品」といった方が、
より戦略的な商品開発が可能となるはずだ。

今のところ、Tポイントデータの利用料金は100万円以上とのことだが、
数十万まで下がってくれば、使える企業はかなり増えるだろう。

もう一つ、マーケティングのインフラという意味では、最近リリースされた
マクロミルの「Questant」も注目だ。これはASP式のセルフアンケートサービスで
今のところ10問100サンプルまでなら無料で利用できる。
有料化も予定されているようだが、年間29,800円と個人事業主でも十分使えるレベルだ。
モニター属性に厳密さをもとめず、「ちょっといろんな人の意見を聞きたい」というシーン
で使えそうなツールだと思う。当然、メーカーの商品開発にも使えるだろう。

郵送調査や対面調査しかなかった時代から、ネット調査が普及して、
「消費者を知る」「顧客を知る」ことは、かなり容易になった。
マーケティングのインフラにおける「民主化」だ。
現在、技術の進化でより一層の民主化が起きつつある。

道具はそろいつつある。あとは、いかにこれを「使いこなすか」だ。
それには、顧客のことを知りたい、という企業としての意識・風土が必要である。
目の前のバイヤーが顧客ではない。
自社の商品を購入し、使ってくれるお客様こそが、自社の顧客である。
中堅・中小企業にとっては、まずは、その発想転換が必要かもしれない。

0 件のコメント:

コメントを投稿